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By GenCybers.inc

Blockが従業員の約40%を削減、それでも株価は24%急騰:AI時代テック業界の残酷な論理

Block(旧Square)のCEOジャック・ドーシー氏は4,000人規模の人員削減を発表し、従業員数は6,000人未満へ。発表後、時間外株価は24%以上上昇。AI転換戦略とウォール街の評価ロジックを深掘りします。

Blockが従業員の約40%を削減、それでも株価は24%急騰:AI時代テック業界の残酷な論理

Cover Photo by Helen Cramer on Unsplash

企業が従業員の約40%を削減しても、株価は下がるどころか上がる。2026年のテック業界では、もはや珍しい話ではありません。

何が起きたのか

xのメッセージ

2026年2月26日、フィンテック企業 Block(旧Square)のCEOジャック・ドーシー氏は全社員向けの社内メモで、約4,000人の人員削減を発表しました。従業員数は1万人超から6,000人未満へ縮小。削減率は約40%に達し、Block創業以来最大規模の組織再編となりました。

この発表を受け、Blockの株価は時間外取引で24%以上急騰しました。

ドーシー氏はメモの中で、今回の判断は資金繰りの悪化によるものではなく、Blockを「より小さく、よりフラットで、インテリジェンス・ネイティブ(intelligence-native)な企業」に変えるためだと説明しています。同時に公表された2025年第4四半期決算では、調整後EPSは0.65ドル(市場予想0.64ドルを上回る)、売上高は62.5億ドル、粗利益も成長基調を維持しました。

要するに、会社は利益を出しているのに、なお人員をほぼ半分削減したということです。

Blockとは何者か:Squareリーダーからフィンテック帝国へ

Blockという社名に馴染みがなくても、SquareやCash Appなら聞いたことがある人は多いはずです。

Blockは2009年、ジャック・ドーシー氏(Twitter共同創業者)とジム・マッケルビー氏によって創業されました。最初の製品はスマートフォン接続型の小型カードリーダー「Square Reader」。これにより小規模事業者でもクレジットカード決済を簡単に受け付けられるようになり、硬直的だった決済業界に風穴を開けました。

Squareは2015年に1株9ドルで上場。その後、製品ラインと事業領域を拡大し続け、2021年12月には正式に社名をBlock, Inc.へ変更。決済会社の枠を超えた事業多角化を明確にしました。

主な事業セグメント

現在のBlockは、以下の主要プロダクトを軸に事業を展開しています。

製品・事業位置づけ概要
Square加盟店向けサービスPOSシステム、決済処理、加盟店向け融資、業務ソフトを提供。飲食・小売・サービス業などを幅広くカバー
Cash App個人向け金融P2P送金、デビットカード、給与直接入金、ビットコイン/株式投資、税務サービス。月間アクティブユーザーは5,600万人超
AfterpayBNPL(後払い)2022年に290億ドルで買収。現在はCash Appエコシステムに統合
Tidal音楽ストリーミング2021年にJay-Zの音楽プラットフォームの株式80%を取得
Bitkeyビットコインウォレット自己保管型ハードウェアウォレット
Protoビットコイン採掘採掘向けハードウェアシステム

決済端末から個人向け金融、BNPL、暗号資産まで。Blockの狙いは一貫して、包括的なフィンテック・エコシステムの構築でした。そして今回の削減前までは、その基盤を1万人超の従業員が支えていました。

人員削減の中身:段階的縮小ではなく一気の再編

ドーシー氏は、なぜ漸進的な縮小ではなく一度に大規模削減を行うのかについて、長期化する不確実性が士気に与えるダメージを避けるためだと説明しています。今回の決定を、同社史上「最も難しい判断の一つ」とも表現しました。

退職パッケージ

対象者には、以下の補償が提示されています。

  • 基本給20週間分+勤続1年ごとに1週間分を追加
  • 2026年5月末までの株式報酬ベスティング継続
  • 6か月分の医療保険
  • 会社支給デバイスの保持可
  • 5,000ドルの移行支援金

再編コスト

Blockは今回の再編にかかる総費用を、4.5億〜5億ドルと見積もっています。内訳は、退職金、福利厚生継続、移行関連費用などです。

補償水準だけ見れば、テック業界の中では中位以上と言えます。ただし、同時に4,000人が職を失った事実の重さは変わりません。

なぜ株価は急騰したのか:ウォール街が買ったもの

人員削減の発表後、Block株は時間外で24%以上上昇しました。この反応は丁寧に見る価値があります。

決算は確かに悪くなかった

2025年第4四半期の主要指標は以下の通りです。

  • 調整後EPS:0.65ドル(前年同期0.47ドルから38%増、市場予想を上回る)
  • 売上高:62.5億ドル(前年同期比3.6%増、予想62.9億ドルをわずかに下回る)
  • 粗利益:成長トレンド継続

この数字はファンダメンタルの下支えにはなりますが、売上成長率3.6%と軽微な売上未達だけで、24%の時間外上昇を説明するのは難しいです。

真の触媒:コスト削減による将来利益率の期待

市場が強く反応したのは、削減による将来の利益率改善期待です。

単純計算すると、対象社員1人あたりの年次人件費(給与+福利厚生)を15万〜20万ドルと仮定した場合、4,000人で年間6億〜8億ドル規模。ここから一時費用(4.5億〜5億ドル)を差し引いても、2年目以降は削減分が利益に直結しやすくなります。

ウォール街にとっては、シンプルなシグナルです。人数は少なく、利益は多く、効率は高く

さらに深い物語:AI転換プレミアム

ドーシー氏は、今回の削減を単なるコスト施策ではなく、AI主導の組織変革という大きな文脈に載せました。「intelligence-native company」という言葉は、現在の市場環境で非常に強い訴求力を持ちます。投資家はコスト削減だけでなく、「AI時代に適応した新しい企業像」にもプレミアムを与えています。

AIナラティブ:本当の変革か、都合のよい物語か

今回の件で最も検証すべきポイントはここです。

ドーシー氏の主張は、AIツールの進化によって同等以上の仕事をより少ない人数で回せるようになるため、Blockもより小さくフラットな組織へ移行すべきだ、というものです。

ただし、これはBlock固有の話ではありません。2025年以降、テック企業の間ではAI戦略と人員削減を結びつける動きが増えています。

  • Salesforce は採用凍結時に、AIエージェントが一部業務を代替し始めていると説明
  • Amazon も複数部門での削減時にAIによる効率化に言及
  • 複数のテック企業 が決算説明会で、AIを「人時生産性向上」の中心テーマとして提示

その中でBlockが際立つのは、やはり規模です。大手テック企業が一度に40%削減するのは極めて異例です。

懐疑的な見方

ウォートン校のEthan Mollick准教授は、次のように疑問を呈しています。

「有効なAIツール自体がまだ新しく、それを前提に仕事をどう設計すべきか私たちは十分に分かっていない。50%以上の効率向上を突然実現できると見込んで、これほど大規模な削減を正当化するのは想像しにくい。」

この指摘は本質を突いています。2026年初頭時点で、大規模言語モデルやAIコーディング支援が個人の生産性を押し上げる可能性は確かに示されています。しかし「個人の効率向上」と「会社全体を半分の人数で回せる」は、同じではありません。

Forrester Researchの2026年1月レポートでも、AIを理由にした人員削減の多くは、実際の効率向上より財務上の要請が主因である可能性があると指摘されています。

専門的視点:考えるべき3つの問い

1. AIナラティブは“万能の説明”になっていないか

いま起きている現象は示唆的です。AIが技術ツールから企業ナラティブのツールへ変化している

企業が「業績悪化で削減する」と言えば株価は下がりやすい。一方で「AI転換のために組織をスリム化する」と言えば株価が上がることがある。市場はこの2つを明確に別物として価格付けしています。

もちろん、AIを理由にした削減がすべて言い訳だという意味ではありません。AIが一部業務の効率方程式を変えているのは事実です。ただ、「AI転換」という言葉だけで時間外24%上昇が起きるなら、個別事例を慎重に検証する姿勢は不可欠です。

Blockは特に象徴的です。利益を出し、粗利益も伸ばしている局面で40%を削減し、「AIでより小さくなれる」と説明した。これは先見的な経営判断なのか、それともAIをまとった利益率最適化なのか。実態はその両方かもしれませんが、比重は時間が経たないと分かりません。

2. ウォール街の効率崇拝と、見えにくいコスト

24%急騰の裏側には、資本市場の長年の傾向があります。短期の効率改善は強く評価される一方、長期の組織能力構築は相対的に軽視されやすい

削減によるコスト圧縮は、確実で、定量化でき、即時に見えます。対して、失われる可能性のある組織知、士気の低下、イノベーション鈍化、残存社員の過負荷や燃え尽きは、曖昧で、測りにくく、遅れて表面化します。

市場の評価モデルは構造的に前者を好み、後者を過小評価しがちです。

歴史的にも、大規模削減後の帰結は一様ではありません。Metaの2023年「効率の年」のように改善した例もあれば、イノベーション停滞と人材流出の悪循環に陥った例もあります。Blockの成否は、削減そのものより、削減後の実行力で決まります。

3. 4,000人のその後という“もう半分の物語”

株価チャートとAIナラティブの外側で、見落とされがちな事実があります。4,000人が同日に仕事を失ったという事実です。

Blockの退職パッケージは相対的に手厚い部類です。しかし、同時多発的な人員削減が続き、AIで求人要件も変化している現在のテック雇用市場では、再就職のハードルは現実的に高いままです。

さらに重要なのは、ここにあるシグナルです。もしBlock型のやり方、つまりAIナラティブで大規模削減を正当化し、株価上昇で戦略の妥当性を確認する手法が他社に広がれば、テック業界の雇用構造はより大きく組み替わる可能性があります。これは一企業の人事施策に留まらず、業界のパラダイム転換の初期兆候かもしれません。

まとめ

今回のBlockの削減は、表面的には一企業の人事判断ですが、実態としては2026年テック業界で進行中の複数の力学が交差した出来事です。

  1. AI能力の実質的進歩が一部業務の生産性方程式を変え始めている
  2. AIナラティブの資本市場化が、企業に“市場受けする削減理由”を与えている
  3. ウォール街の効率志向が、短期コスト削減を継続的に報いる
  4. テック雇用構造が、より深いレベルで再編されつつある

ドーシー氏は社内メモの末尾で、「より小さく、より速く、インテリジェンス・ネイティブなBlockは、はるかに大きな価値を生む」と述べています。

この言葉が正しいかどうかは、削減当日の株価では決まりません。1年後、2年後、6,000人体制のBlockが1万人体制時代を本当に上回れるかで判断されるはずです。

それまでは、私たちが見ているのは一つの約束、そして4,000人が払った代償です。

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